エチオピア現地レポート「サラムノ!」
「サラムノ!(こんにちは!)」。事務所に到着すると、笑顔で勢いよく駆け寄ってくる子供がいる。彼の仕事は靴磨き。1回磨くと2~5ブル(現地通貨、約9~24円)の収入となる。ホテルの朝食から持ち出したパンをお裾分けし、靴磨きお願いした後、気持ち多めの対価を支払う。これが毎朝事務所に到着したら行う日課である。子供はパンを友達の靴磨きの子供に分け与え、一緒に頬張る。屈託の無い笑顔が、一日のスタートを告げる。この子達は日銭を稼ぐ為、学校には通っていない。首都であるアジスアベバには、こんな子供が数多くいる。
エチオピアは、急速な発展を遂げつつある。過去6年間の実質GDP成長率は約11%であり、アフリカで最も高い経済成長率を遂げている国の1つである[1]。至ることで建設工事が行われており、成長を反映しているようである。経済成長だけではない。5歳以下の乳児死亡率(生後5年未満の乳児1,000人の死亡数)は国際連合によって掲げられた「ミレニアム開発目標」である「年間4.4%の低下」を上回り、年間5%を超える削減を達成している[2]。エチオピアの乳児死亡率の改善は、開発の「ベストストーリー」の1つであると謳われている[3]。アジスアベバにそびえ立つ、アフリカ連合本部のビルが、エチオピアの発展を物語っている。
急速な発展は、多くの問題も孕んでいる。世界銀行によると、一人当たりの国民総所得(GNI)は2010年度でUS$390で、サブサハラアフリカの平均(US$1,176)を大きく下回っており、エチオピアは未だ世界第6番目の最貧国である[4]。産業の競争力もデーターのある118ヶ国中、2005年は最下位、2009年も111位に順位を上げるにとどまっている[5]。GDPの約半分が農業によって賄われており、製造業は僅か5.2%を占める。とりわけ深刻なのは、人口の増加である。2000年に約6600万人であった人口が、2010年には約8300万人まで増加しており、2020年には1億人の大台にのること予想されている[6]。「持続可能な開発」という大きな課題が、エチオピア、そして世界に課せられている。
エチオピアはでは初等教育は無料とのことである。にも拘わらず、多くの子供達が、学校に行かず靴磨きをしている。聞くところによると、物乞いをする女性は、子供を抱えていると同情を引くことができるため、子供を産むとのことである。子供がある程度大きくなると、物乞いには使えなくなるため子供は捨てらる。その結果、自分で生きていく為に靴磨きになるとのことである。真偽の程は分からない。毎朝会うあの子供も、そのような境遇なのだろうか。爆発的な人口の増加には、乳児死亡率の低下だけでなく、そんな背景もあるようである。この子がやがて大きくなり、物乞いの「道具」として生まれたと知ったら、どう感じるだろうか。字が読める周りの大人を見て、自分が字が読めないと認識したら何を思うだろうか。或いはもう、物乞いの為に生まれたと分かっているのだろうか・・・そんなことを考えると、かける言葉が見つからない。
人は、人には言えない思いを胸に秘めながら、他人と交わる。明日もあの子供は笑顔で駆け寄ってくるだろうか。そうすれば、笑顔でこう言いたい。「サラムノ!」。





[1] “Ethiopia: Country Brief” World Bank. Available at http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/COUNTRIES/AFRICAEXT/ETHIOPIAEXTN/0,,menuPK:295939~pagePK:141132~piPK:141107~theSitePK:295930,00.html
[2] 「ミレニアム開発目標」は1990年から2015年の間に、5歳以下の乳児死亡率を3分の2に削減することを目標としている。
[3] The Economist (2012) “The Best Story in Development” May 19th – 25th 2012.
[4] “Ethiopia At A Glance.” World Bank (2012) available at
http://devdata.worldbank.org/AAG/eth_aag.pdf
[5] UNIDO (2011) “Industrial Development Report 2011; Industrial Energy Efficiency for Sustainable Wealth Creation.” Available at:
http://www.unido.org/fileadmin/user_media/Publications/IDR/2011/UNIDO_FULL_REPORT_EBOOK.pdf
[6] United Nations, Department of Economic and Social Affairs. “Population Prospects 2010.” Available at: http://esa.un.org/unpd/wpp/index.htm