発展への離陸を始めた、アフリカの大国・ナイジェリア
中小企業政策・振興コンサルタント
加藤公彦
ナイジェリアは、アフリカ西部に位置する面積923千㎢(日本の約2.5倍)、人口1億4千万人(2006年、National Bureau of Statistics)と、アフリカ大陸の53カ国の中で最多の人口を抱えています。広大な国土だけに資源も豊かで、キャッサバ、米、シアバター、オイルパームなどの一次産品のほか、石油資源にも恵まれています。こうした潜在的な国力を背景に、ガーナ、セネガル、リベリアなどアフリカ西部に位置する15カ国で構成される西アフリカ諸国経済共同体(Economic Community of West African States: ECOWAS)の事務局が首都アブジャに置かれるなど、ナイジェリアは地域の盟主としての役割が期待されています。
1人当たりGDP(2006年、ECOWAS統計)は、728ドルとECOWAS加盟国平均の652ドルを上回っているものの、貧困の削減が喫緊の課題です。このため2000年9月国連で採決されたミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)の達成に向けた取り組みが官民挙げて行われています。MDGsでは貧困削減、初等教育の充実、ジェンダーの平等・女性のエンパワーメントなど8つの目標が掲げられていますが、貧困削減では、2015年までに一日一ドル以下で生活する人口の割合を1990年に比して半減させることとなっています[i]。
政府が策定した国家経済エンパワーメント開発戦略(National Economic Empowerment and Development Strategy)では、MDGsによる貧困削減目標達成のためには7%の成長が必要だとしてそのための具体的施策を打ち出しています。たとえば、電力、インダストリアル・パークなどのインフラ整備、マイクロファイナンス、信用保証制度など金融環境の整備に取り組んでいるほか、連邦商工省傘下の中小企業開発庁が能力があると認められる民間コンサルタント会社をビジネス開発サービス(Business Development Service: BDS)プロバイダーとして認定するなどBDSの普及に努めています。
民間レベルでは各地の商工会議所やラゴスに本部を持つナイジェリア製造業者協会がそれぞれの会員企業に対して生産、マーケティング、財務管理などのテーマについて中小企業開発庁認定のBDSプロバイダーを活用しながらBDSの提供を強化するなど様々なプログラムが本格化しています。また、ラゴス商工会議所は120年の歴史を有し、西アフリカ諸国で最も古い商工会議所とされますが、地元のラゴス州立大学と連携して開発したカリキュラムにもとづく起業家向けトレーニングプログラムを2008年12月からスタートさせたところです。
一方、こうした支援により発展が期待される民間セクターとしては、全国に点在する、精米、シアバター、皮革、藍染など地域資源を活用したクラスター[ii]があります。たとえば、北部のカノ州には、地元の天然インディゴを活用した加工技術が約500年の長い歴史のなかで、親から子へ、子から孫へと伝承されてきている藍染業者の集積地があるほか、100年ほどの歴史を有する、牛、象、ライオンなどの皮革業者の集積地にもなっています。藍染製品はフォーマル・ウェアの素材としてヨーロッパやアジアへ輸出されているほか、皮革クラスターではイタリア人バイヤーが同地に常駐するほど品質に優れた皮革生地に加工するなど国際市場との接点も有しています。
ナイジェリアの産業構造を付加価値額ベース(2006年)の構成比でみると鉱業(37.5%)と農林漁業(31.8%)の2部門で69.3%を占める一方、製造業は2.6%にとどまっています。したがって、長期的な発展を可能とするためには産業構造の多様化を図りつつ貧困を削減する必要があることから、ドイツ技術協力公社(GTZ)によるナイジャー州でのシアバター、ナサラワ州でのセサミ、英国国際開発省(DFID)によるカノ州、オグン州での精米、国連工業開発機関(UNIDO)によるエボニ州での製塩など、国際ドナーも積極的に各地のクラスターにおけるバリューチェーンの組成支援を行っています。
ナイジェリアでは宗派対立による暴動や南部の油田地帯での利権を巡るテロ行為など治安は決して良くありませんが、今回の訪問で、カノ州の藍染業者のようにクラスターでの仕事に誇りを持ち、競争力を高めたいとの意欲を持つ企業家、またラゴスでの調査にあたり首都アブジャから同道してくれた連邦商工省のA氏、訪問先の一つであるラゴス商工会議所経営相談部のB氏らの企業の育成・発展に奔走する姿を傍らから見るとき、彼らの日々の努力が豊かな明日へと結実することを願ってやみません。
[i] ナイジェリアの場合、1990年の貧困率は42.8%であり、2015年までの目標値は21.4%となっている(政府によるThe Nigeria MDG Report 2005より)。
[ii] 連邦商工省では、「クラスター」について明確な定義はなされていないが、「地理的に近接した地域内において、おもに当該地域内で産出される資源を活用した類似の業種を営む中小零細企業が多数存在する状態」のこととして用いられているようである。なお、マイケル・ポーターによる「Cluster」とは、「ある特定の地域内に生産企業、原材料等供給業者、部品・設備等関連業者、大学等研究機関が集積している状態」(The Competitive Advantage of Nations, 1998)と定義されており、クラスターの発展が国家の競争力の源泉とされている。