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2006.12.02

『世界で一番幸せな国から』

バヌアツ国援助調整企画調査員

織本あつ子

バヌアツは、「天国に一番近い」ニューカレドニアの北東400km、フィジーの西1200kmに位置する約80の島から構成される南太平洋に浮かぶ島国です。ちょっと前まで、「バヌアツ?どこそれ?ボツアナ?」と言われることが多かったバヌアツですが、今年に入って「世界で一番幸せな国-Happiest Nation in the World」として、にわかにその知名度が上がっているようで、「ああ、世界で一番幸せな国[1]なんでしょう。いいわね」なんて言われることが増えました。

[1] 地球上で最も幸せな国は、人口20万人で経済活動も小規模な南太平洋の島国バヌアツ共和国-。英国の独立系シンクタンクが12日公表した「地球幸福度指標」で、このような結果が出た。先進国は軒並み順位が下で、日本は対象178カ国中95位、英国108位、米国150位などとなっている。 (2006年7月:時事通信より)

人々の生活の中心、マーケット。ポートビラのマーケットは、色とりどりの花やキャベツ、ヤム、バナナなど様々な産物であふれます。
タムタムは、硬木をくりぬいたドラムで、ベルの役目を果たしたり、伝統ダンスを行なう際の打楽器として重要な意味を持っています。

青年海外協力隊員として、1990年代前半、3年4ヶ月をマレクラ島で過ごした私は、日本→カナダ→ソロモン諸島→イギリスを経て、今度は、JICAの「援助調整」企画調査員として、実に12年ぶりの2006年9月、バヌアツに「里帰り」を果たしました。

バヌアツ人の友人からも、日本やイギリスの友人からも「バヌアツは変わったか?」とよく聞かれます。その答えは「イエス」であり「ノー」です。首都であるポートビラはその範囲を拡大し、週に1、2度寄港する大型客船により、観光収入がGDPの約3分の一を占めるようになるなど、経済規模も拡大しています。何でも手に入るポートビラだけを見たら、途上国とは言えないかもしれません。けれども、人口の80%を占める大部分の人々は、ポートビラ以外の地方村落で今も自給自足に近い生活を営んでいます。しかし、地方住民の主な現金収入は、コプラ(ココナツの油脂部分を乾燥させたもの)やカカオによるもので、近年の国際市場価格の下落を受けて、農業のGDPは下がっており、私が住んでいたマレクラ島の州都であるラカトロ・ノルスープ地域にも、ドクターは1人もいない(1994年当時は2人のドクターがいた)など、地方の公共サービスの衰退ははっきりとしており、都市と地方の格差が逆に広がり、それが若者達の都市流入につながっています。

バヌアツは、サモアに次いで、2013年を目標にLDC(後発開発途上国)を卒業し、DC(開発途上国)に仲間入りするように国連から勧告を受けています(逆に後発開発途上国に戻るように勧告され、「我々はもはや後発開発途上国ではない。馬鹿にするな」と言っているパプア・ニュー・ギニアとは違い、バヌアツは「我々は問題がまだまだあるのだから、そんな勝手に開発途上国に格上げされては困る」と国連に文句を言っています)。 

パプア・ニュー・ギニアの政情不安は昔から知られていましたが、2000年以降、フィジーのクーデター、ソロモン諸島の部族抗争が起こり、少し前まで優等生と思われていたトンガが暴動で後退したことで、南太平洋諸国の中でバヌアツが浮上したというよりは、「気がついてみたらサモアと共に優等生として残っていた」というのが本当のところでしょう。今のうちに、国内にくすぶる不満や問題の解決に着手しなければ、他国のように政情不安が始まるとも限らない危うさを含んでいる国であることには変わりありません。

バヌアツには飢えはありませんが、一方で、年平均の人口増加率は2.6%と非常に高く、急激な人口増加による社会不安や土地への圧力による争いが心配されています。バヌアツにおける援助は、社会不安の予防的な色があることは否定できませんが、自分の活動によって、この国の人達が、これからも「世界で一番幸せな国」の人々としていられるための一助となるよう努力していきたいと考えています。

南国のクリスマスは夏。バヌアツでは、クリスマスに真っ赤に花をつける写真の木を「クリスマスツリー」とよんでいます。

番外1.バヌアツナイトライフ(カバのススメ)

「カバ」は、コショウ科の植物で、その根っこを砕いたり、噛んだりして、その液体(アルカロイドを含む)を飲みます。フィジーやトンガでも「ヤンゴナ」という薄いものを昼間でも飲むようですが、バヌアツのカバは強いため、とても昼間には飲めません。カバを飲むと、視覚や聴覚が鋭くなり、光がまぶしく感じるため、皆暗いところにかたまって、つばを吐きながらボソボソと小さな声で話しをすることになります。

バヌアツ人は、普段シャイな分、概して「トラ」で、アルコールを飲むと気が大きくなり、ケンカが絶えず、トラブルに巻き込まれることが多いのに対して、カバは飲むとだんだん声も小さくなっていき、「さあ、眠くなったから帰ろうか」となる非常にPeacefulな飲み物です(そのため、昔は部族抗争を収めるには、カバを飲みながら和解の儀式を行っていたというのも頷けます)。バヌアツ人の友人とお酒は一緒に飲めないけれど、カバを一緒に飲んで夕暮れの海辺のナカマルに集う・・・。これがオツなバヌアツナイトライフなのでした。

番外2.バヌアツでビッグマン、必要条件は?!

バヌアツでは、ブタは昔から財産として重要で、特に上の犬歯を抜き、下の歯を伸ばしてぐるっと一周した歯があるブタが珍重されています。大事にされているとはいえ、下の歯が伸びると上唇を貫通して歯が伸び続けるブタもおり、そうなると、もう自分では餌を食べられないため、細かく砕いた食べ物を人間が食べさせてやる状況になるそうです。

そして、食べ頃になったブタは、首長になる儀式や結婚式など、盛大な催し物で多い時には何十頭と殺されることになります。

バヌアツで首長になるには、ブタを「ナルナル」という棍棒で殴り殺すことができなくてはなりません。日刊紙「デイリー・ポスト」では、一週間に一度は、「ビッグマン」のブタ殺しの儀式が新聞を賑わします。バヌアツのブタの人生は決して幸せではないのでした・・・。

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